PIANISTS FOR ALTERNATIVELY SIZED KEYBOARDS_手のストレッチ運動の効果、限界、危険性

この記事の元記事: https://paskpiano.org/stretching-exercises-benefits-limitations-and-dangers/



PIANISTS FOR ALTERNATIVELY SIZED KEYBOARDS


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If everyone plays the same size,
most are playing the wrong size!

みんなで同じサイズを弾くと、
ほとんどの人が不適切なサイズを弾いています!


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細幅鍵盤が必要な理由:その根拠


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疼痛、傷害、人間工学

Stretching exercises – benefits, limitations and dangers
ストレッチ運動の効果、限界、危険性


Stretching exercises
ストレッチ運動


ピアニストや教師が、(他にも多数あるが)ピアニスト向けの特定のストレッチ運動について議論したり奨励したりすることがよくあります。

手や指、あるいは腕を伸ばす目的を考慮することは重要です。
多くの場合、(1)手や指のスパンを拡大し、(2)長期間にわたって筋肉の柔軟性や強度を維持するという2つの広義な、時には重複する目的があり、そのような運動がピアニストの通常の準備運動習慣の一環となっていることが多いです。


Can stretching the fingers and hands increase a pianist's reach at the keyboard?
指や手を伸ばせばピアニストが鍵盤で届く範囲を広げられる?


(演奏や曲目の選択を制限するものとして手のスパンが広く定義されている)『手の小さい』ピアニストは、自身のスパン - 親指と小指の間の端から端までのスパン、および(または)その他の指の間の全体的なスパンを拡大するため、ストレッチ運動や、更には機械的装置の可能性を求めて頼ることがよくあります。
ピアニストの中には、特定の運動が『うまくいった』と主張し、他の人に勧める人もいます。ある人の個人的な経験に基づく主張には科学的根拠がありません。更に、言われている『効果』は、その人が『ストレッチ』期間中にまだ成長中だったかどうか見極めるのが不可能です。

手の解剖学的構造を見ると、中手骨頭(人差し指から小指の指関節)は、『引き伸ばす』ことができない厚い靱帯と共に保持されており、捻挫するか引き裂かれるだけです。同様に、各指の関節には両側に沿って靭帯があり、関節が損傷したり不安定になったりする危険性を回避するために過度に伸ばすべきではありません。
伸ばす必要があるのは皮膜(水かき)部分にある親指と人差し指の間の筋肉だけですが、親指の関節の付け根にある靭帯に負担がかからないように注意してください。
したがって、ストレッチをすることでピアニストの手のスパンを拡大したり、指の柔軟性を高めたりする可能性は限られています。(B・アッカーマン(Ackermann)、2020年)
(親指から小指の)最大の有効な範囲は、(1)指の長さ、(2)掌の幅、および(3)外転の角度の作用です。ピアニストが外転の角度を180度に近づけると、手のスパンをこれ以上広げることができなくなります。

19世紀の間には、ピアニストの手のスパンを広げることを目的とした手の手術が流行りました。

『手の外科手術は19世紀後半にその流行の真っただ中に達し、パーラー・ピアニストによるサロン音楽の習得速度を速めることから、プロ・ピアニストがスパンを広げてよりきつい薬指をもう1インチ(2.54 cm ≒ 鍵盤1個分)ほど離れた鍵盤まで上げることまで、あらゆる用途に使用されていた時代でした・・・。これら外側腱を切断する手術は、ウィリアム・E・フォーブス(William E. Forbes)という名前の外科医によって19世紀半ばに開発されました・・・。それは物議を醸した手術でしたが、フォーブス博士は1898年までにそれを2,500回実行したと見積もっています・・・。ピアニストのためのツェルニーの練習曲は、習得するには過大な時間を要しました。指を伸ばして分離する機械が開発されました。しかし、この手術は15分しかかかりませんでした。』
(ニューヨーク・タイムズ紙、1981年6月14日)

今でも一部の国では、才能のある若いピアニスト(主に女性)がこの種の手術を受けるように勧められているという事例報告があります。

20世紀の間、教師によって発表され促進された多くの運動は、指をばらばらに引き伸ばすよう意図的に考案されたものでした。
ディール(Deahl)氏とライステン(Wristen)氏(2017年)は、この種の道具や運動を用いて手を広げることが特に問題となるのは、手の解剖学的な構造に起因すると明言しています。手の小さいピアニストが傷害を負う危険因子として知られていますが、手を限界まで完全に開くときにこういった制限はさらに深刻になります。
彼らは以下のように結論付けています。
『ストレッチ運動や道具の効果に自信をのぞかせる個々の事例報告はあるものの、このような運動や道具が手の届く範囲を物理的に広げられるという経験的証拠はありません。もっとはっきり言えば、この種の一連の動作や機械式機器は、数多くの破壊的な怪我に関係しているとされており、最も有名なものはロベルト・シューマン(Robert Schumann)の事例です。それらは細心の注意を払って考えられるべきであり、おそらく完全に避けるのが最善です。』(p. 18)

ディール&ライステン(Deahl & Wristen)(2017年)に加えて、ワグナー(Wagner)(1984年)、オルトマン(Ortmann)(1929年)、クロッペル(Kloeppel)(2000年)など、その他の著者は、楽器を演奏したりストレッチ運動をしたりすることにより、時間の経過とともに手のスパンが大幅に大きくなるという主張を裏付ける証拠も科学的根拠も見つけていません。
ドリスコル&アッカーマン(Driscoll & Ackermann)(2012年)は、低い音域の弦楽器奏者の間で左手の親指から小指までのスパンが大幅に大きくなるのは、長年これらの楽器を演奏してきた靭帯の伸張に起因する可能性が高いと示唆していますが、平均差(0.2インチ(0.5 mm))の程度は比較的小さなものです。その研究の弦楽器奏者は一流のオーケストラミュージシャンであり、その活動が指のスパンに僅かな影響を及ぼすことが可能だったかもしれない幼児期に楽器を習得し始めた可能性が最も高いでしょう。

ピアニストは、ピアニスト以外の人たちよりも手のスパンがわずかに大きいという若干の証拠が存在します(ボイル、ボイル&ブッカー(Boyle, Boyle & Booker)、2015年)。
考えられる2つの主な理由は、(1) 子供の頃から楽器を演奏したり、ストレッチ運動をしたりすることによる長期的な影響、そして(2)手の大きい人たちは手の小さい人たちよりも課題を見つけるのが比較的容易でより大きな成功を収め、結果として演奏を続けやすい(即ち自己選択)ということです。

見込みのある手のスパンの人たちがピアノの演奏を容易にこなせて楽しいと感じ、ある程度の成功を収める可能性が高いために続けるよう更に勧められるその一方で、『手の小さい』人たちは比較的若年時にピアノを弾くのを断念しているというのは確かにもっともな話です。
このような自己選択のパターンは多くのスポーツで見られるものです。このパターンの一部では、教師や親が子供、特に女児に、自分の手により向いている他の楽器に重点的に取り組むことを促している可能性が高いです。


Stretching as part of a warm-up routine
準備運動習慣の一環としてのストレッチ


演奏時に腕全体を最適にする為に胴体や腕などピアノから離れた準備運動を、多くの専門家が推奨しています。
手や指には、指を別々かつ一緒に軽く伸ばしたり動かしたりすることから効果が得られることもあり得ます。指を必ずしも無理に別々にする必要はないはずです。
特に手の小さいピアニストにとっては、腕全体の動作を指の筋肉の動作と一体化することは非常に重要です。

ここでは専門家が推奨する運動習慣の実例を紹介します。

  1. アリス・ブランドフォンブレナー(Alice Brandfonbrener)博士とキャロル・ブルックス(Carol Brooks)によって開発されたウォーミングアップ(2002年、ベレンソン(Berenson)他で複製)。
    https://paskpiano.org/wp-content/uploads/2021/09/Warm-Up-Exercises-Brandfonbrener.pdf

  2. ピアノ教師、ブレンダン・ホーガン(Brendan Hogan)より:
    https://www.youtube.com/watch?v=e28xk4YnUAA&fbclid=IwAR3O7-8_7BdLFrextyqqf_2JDbkKUCrz4rYbBT5-j7BhtVlRVfY5Qcjykew

  3. ピアニストで医師、チェスワフ・シエルジッキ(Czeslaw Sielzycki)より:
    https://www.youtube.com/watch?v=bTptqn9U6fU&fbclid=IwAR3UnqUx-LTVsOhZIsqR0igD7m_dEgp0OrhuL-Y5o4K59R8MWqCKmwAWEuI

  4. アンダーソン・ダート(Anderson Dart)とニック・ギャロ(Nick Gallo)、理学療法101より:
    https://www.youtube.com/watch?v=_jWxIPrBSdQ&fbclid=IwAR37aH62vfQmtWABBFPTtI94EkDuVGMdNWeDf-nU-K_1t5dDI8CE0lZWjj4

もちろん、ピアノの演奏に関連した痛みや怪我を経験しているピアニストは、専門家に相談することをお勧めします。

特に若い演奏家にとってのストレッチ習慣の利点や危険性に関しては、更なる研究が必要です。
年配のピアニストは、筋力と柔軟性をできるだけ長く維持するために、健康的な準備運動や運動習慣を維持する必要があります。
参照: Impacts of aging(老化の影響)


References - 参考文献


Ackermann, B.(アッカーマン・B)(2020年)
個人間の情報交換


Berenson G. et al (ベレンソン・G、他)(2002年)
A Symposium for Pianists and Teachers: Strategies to Develop the Mind and Body for Optimal Performance.(ピアニスト・教師シンポジウム: 最良の演奏をするための心と体を養う方策。)
Heritage Music Press(ヘリテージ・ミュージックプレス、オハイオ州・デイトン), pp 219-220.
https://www.amazon.com/Symposium-Pianists-Teachers-Strategies-Performance/dp/0893281549


Boyle, R., Boyle, R. & Booker, E.(ボイル, R.、ボイル, R.、& ブッカー, E.)(2015年)
Pianist Hand Spans: Gender and Ethnic Differences and Implications for Piano Playing.(ピアニストの手のスパン: ピアノの演奏に対する男女差や人種差および影響。)
Proceedings of the 12th Australasian Piano Pedagogy Conference, Beyond the Black and White, Melbourne, July 2015.(第12回オーストラレーシア・ピアノ教育学会議の議事録、白黒(二者択一)の域を越えて、メルボルン、2015年7月。)
https://www.appca.com.au/proceedings/


Deahl, L. & Wristen, B.(ディール・L、& ライステン・B)(2017年)
Adaptive Strategies of Small-Handed Pianists, Oxford University Press, UK.(小さな手のピアニストに向けた適応戦略、英国、オックスフォード大学出版局。)
https://www.oupjapan.co.jp/en/node/20670


Driscoll, T. & Ackermann, B.(ドリスコル・T、& アッカーマン・B)(2012年)
Applied musculoskeletal assessment: Results from a standardised physical assessment in a national population of professional orchestral musicians.(応用筋骨格評価: プロのオーケストラ・ミュージシャンの国民人口における標準化された身体的評価の結果。)
Rheumatology: Current Research(リウマチ学: 最新の研究), vol. S2, 1-7.
http://omicsonline.org/applied-musculoskeletal-assessment-results-from-a-standardised-physical-assessment-2161-1149.S2-005.pdf


Kloeppel, R.(クロッペル・R)(2000年)
Do the “spreadability” and finger length of cellists and guitarists change due to practice?(チェリストやギタリストの「展延性(広がりやすさ)」や指の長さは練習によって変わるのか。)
Medical Problems of Performing Artists, 15 (1), 23-30.(アーティストの医学的問題、15 (1)、23-30。)
https://www.sciandmed.com/mppa/journalviewer.aspx?issue=1093&article=1025


Ortmann, O.(オルトマン・O)(1929年)
The Physiological Mechanics of Piano Technique.(ピアノ・テクニックの生理学的機構。)
Kegan Paul, Trench, Trubner & Co., London, and E.P. Dutton & Co., Inc., New York.(ケガン・ポール、トレンチ、トリューブナー社、ロンドン、およびE・P・ダットン社、ニューヨーク。)
https://www.scribd.com/doc/78826778/Otto-Ortmann-The-Physiological-Mechanics-of-Piano-Technique-1929


Wagner, Ch.(ワグナー・Ch)(1984年)
Success and failure in musical performance: Biomechanics of the hand.(音楽の能力における成功と不成功: 手の生体力学。)
In: Roehmann F.L., & Wilson F.R. (Eds)(ローマン・F・L、およびウィルソン・F・R(編集者)): The Biology of Music Making, Proceedings of the 1984 Denver Conference, St Louis, Missouri, MMB Music Inc., 1988(音楽作成についての生物学、1984年デンバー会議の議事録、ミズーリ州セントルイス、MMB音楽社、1988年), 154-179.
http://www.christoph-wagner-musikphysiologie.de/CH.%20Wagner_Success%20and%20failure_1988.pdf


https://www.nytimes.com/1981/06/14/arts/when-a-pianist-s-fingers-fail-to-obey.html


(※1) ブロンウェン・アッカーマン(Bronwen Ackermann)博士は、シドニー大学の医学部および保健学部の准教授です。
彼女は専門的な演奏家の理学療法士、筋骨格系の解剖学者で、演奏家の健康に関する研究者であり、国際的な学術誌、Medical Problems of Performing Artists(アーティストの医学的問題)の編集長でもあります。


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